スミスチャートによる整合回路設計
高周波回路設計においてスミスチャートを使った整合回路設計を考へる。私はスミスチャートを使った整合回路設計を充分理解するのに二年ほどかかった。それは二冊の参考書の記述が異なってゐたためである。ある本には別の方法が書いてあったのだ。スミスチャートそのものの理解が朧気な状態で混乱してゐた。三冊目の参考書を見て、私はこれまでの二冊が同じことを別の方向から書いたものであることをやっと理解した。以下それを説明する。
あるインピーダンスを作る(順方向)
1GHzの周波数でZ=16+j16(Ω)のインピーダンスを持つ部品を50Ωに整合させる回路を考へる。整合させることは部品のインピーダンスに複素共軛(complex conjugate)のインピーダンスを接続することである。そのためには50Ωをその共軛のインピーダンスに変換しなくてはならない。ここでは16-j16(Ω)に変換することになる。スミスチャートでそれを設計する。
図1のやうに50Ωからまづ並列C 4.6pF、次に直列L 1.15nHを使って16-j16(Ω)に変換することができた。(図2)
ところでこの16-j16(Ω)から回路を逆に辿ってみる。図3のやうに直列Lを先に通って次に並列Cの先は50Ωには戻らず明後日のインピーダンスになる。これは意味がない。
それでは16-j16(Ω)の複素共軛のインピーダンス16+j16(Ω)から回路を逆に辿ってみる。これはそもそも部品のインピーダンスである。図4のやうに直列Lを先に通って次に並列Cの先は50Ωに戻ってくる。今度は正解である。
ここで整合回路設計の方向に二種類あることが分る。
あるインピーダンスを規定のインピーダンスに合はせる(逆方向)
前節の最初に説明した方法は教科書的な方法である。整合させる部品に複素共軛のインピーダンスを用意するのである。スミスチャートに、部品と複素共軛のインピーダンスを記し、50Ωからそこまで軌跡を引くのである。
一方前節の最後に示す方法も有効である。この方法では部品のインピーダンスを直接スミスチャートに記し、そこから50Ωに向って軌跡を引くのである。こちらはわざわざ複素共軛の点を打つ必要がなくすっきりしてゐる。
つまり整合回路の作り方は、部品に向っていく順方向か、部品から戻ってくる逆方向の二種類があり何れも有効である。しかも部品から戻ってくる方法では複素共軛の点を用意する必要がない。
私が初めに読んだ本は教科書的な方法を取り、後で読んだ本は直接部品のインピーダンスから50Ωに戻ってくる方法であったといふのが混乱の理由であった。
以上
作成 H21.11.14