デジタルマルチメーターの選択に当りまづその仕様を比較するであらう。そこに確度の仕様が出てゐる。確度とはマルチメーターの表示する数値に対して真の値がどの範囲にあるかを示す仕様である。この範囲が狭いほど確度が高く優れた計器である。
確度は読み値に対する誤差とレンジの誤差の二種類の数値からなる。複数のマルチメーターを比較すると一方は小さいが一方が大きかったりその逆もあり、結局どちらの誤差が小さいのか俄にわからない。本文では確度仕様に基づき誤差の最大値を計算しそれを比較することを提案する。
確度仕様 読み値の誤差とレンジの誤差
確度仕様には二つの数字がある。一つは読み値に対する誤差であり、表示された数値に対する誤差であり比率で示される。レンジの誤差は各レンジ固有の誤差であり、測定電圧に関はりなくそのレンジの測定値に対して発生する可能性がある誤差である。最小読み値(digit)を単位に示される。以下に実例を示す。
Sanwa PC510a DCV Accuracy
DC V |
50.00 mV | 0.12% reading + 2 digits |
500.0 mV | 0.06% reading + 2 digits |
5.000V, 50.00V, 500.0V, 1000V | 0.08% reading + 2 digits |
カウント数
デジタルマルチメーターは一レンジの最大計数値が仕様に規定されてゐる。その数値まで計数できることが保証されてゐる。例へば5000カウントのマルチメーターは5000まではオーバーレンジにならず計数できることが保証される。実際の所、それ以上の計数も可能であるが固体ごとにばらつきがある*1。オートレンジ動作ではオーバーレンジになると上のレンジに移行する。
測定誤差の計算
測定誤差の最大値は次の式で与へられる。
測定誤差の最大値=読み値*読み値の誤差率+レンジの誤差(digit)*レンジの分解能 端数は切り上げ
0.500Vから5.000Vのレンジの確度仕様が+/-(0.08%+2digits)であるとする。このレンジの1digitは0.001V(1mV)である。このマルチメーターで4.000Vが表示されたとき測定誤差の最大値は
4.0000.08/100+20.001=0.0052 digit未満を切り上げて0.006
つまり測定電圧は3.994Vから4.006Vまでの可能性がある。
6digitsの誤差があるときの表示電圧に対する誤差を計算すると 6mV/4V=0.0015 (0.15%)となり読み値の誤差率より大きくなる。つまり読み値の誤差はレンジの誤差が0でない限り達成できない誤差である。最終的な誤差率は読み値の誤差率より大きくなる。
これをカウント数の仕様上限まで計算すると右下がりのグラフになる。測定する電圧がレンジの下方にあるとレンジの誤差が大きく見え測定誤差が大きくなる。一方測定電圧がフルスケール近辺にあるとレンジの誤差は相対的に小さくなり、読み値の誤差仕様に近い測定誤差になる。
また測定する電圧範囲がカウント数にかかった領域にあるとレンジ切換が発生する。上のレンジでは、レンジの誤差が大きく見える領域になるため測定誤差が大きくなり都合が悪い。以下は5000カウントの例である。
機種比較の方法
機種ごとに確度の仕様はまちまちであり、レンジの誤差が大きいが読み値の誤差が小さい機種とその逆の機種はどちらが優れてゐるのか俄にわからないことが多い。そこで次の方法を提案する。
測定範囲1桁ごとに誤差率を計算する。表示電圧を常用対数表現し表示電圧1桁の幅を1とする。最大誤差率曲線がその下に作る面積は1桁の範囲内の平均誤差率を意味する。この方法によれば同一機種において測定範囲ごとの測定誤差も比較することができる。下のグラフは三和電気計器PC510a型についてDC電圧の最大誤差率を計算したものである。
下図は1桁当りの平均誤差率を示す領域を色付けして示したものである。
以下三和電気計器PC510a型についてDC電圧1桁ごとの平均誤差率を計算した値を示す。有効数字は4桁とした。
1mV~10mV | 1.184% |
10mV~100mV | 0.3015% |
100mV~1V | 0.2564% |
1V~10V | 0.2723% |
10V~100V | 0.2723% |
100V~1000V | 0.2723% |
この平均誤差率により機種間の確度を比較することができる。1桁にわたって平均化すると、読み値の誤差の仕様値より大きくなることがわかる。
機種の選択
測定したい電圧に特定の範囲がある場合、例へば3.3Vの電源電圧を3.0V~3.6Vの範囲で測定する場合などでは、その範囲で最大誤差率が小さい機種を選択する。その場合必ずしも平均誤差率が小さい機種がよいとは限らない。測定範囲でレンジの切換が発生するやうな機種では上のレンジに移行すると誤差率が増加するからである。測定範囲がカウント数以下に入り、最大誤差率が小さい機種を選択するのがよい。上の例では4000カウント以上や40000カウント以上のマルチメーターが相応しい。
特定の電圧範囲がない場合は平均誤差率で機種を選択するのがよい。
以上
*1 その実例「デジタルマルチメーターのレンジ上限の実力値」
参考文献
アールエスコンポーネンツ、テック君の豆知識 デジタルマルチメータ編
横河電機、測定器の正しい使い方入門 ディジタル・マルチメータの使い方
CQ出版社エレキジャックweb、工作入門、ディジタル・マルチメータで電圧測定する(3)確度について