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屋内半固定通信の弱電界領域への対応

 屋内に固定設置された基地局と、屋内に配置または持ち込まれる複数の半固定端末との通信において、屋内で発生する反射波の干渉により特定の位置において電界強度が低下する現象が見られる。それを軽減する方法について考察する。
 尚本稿では反射波による符号歪みによるデータ通信の困難については述べない。

半固定通信

 代表的なものは飲食店の電波呼び鈴システムである。端末である呼び鈴は送信機であり、基地局である受信機に信号を送信する。呼び鈴は卓上で移動ができ位置が固定されてゐないが卓上を出ることがない。このやうなものを半固定通信と呼ぶことにする。

課題

 このシステムで屋内の反射波と直接波が干渉の結果、端末の位置が電界強度の谷になり通信ができない場合がある。この場合端末の位置を動かせば通信は可能になるが、システムによつては位置を変へにくい場合や利用者に位置を変へさせることができない場合もあらう。
 したがつて端末の位置を変へることなく通信が可能になる対応をとる必要がある。


反射による偏波の変化

 議論を簡単にするため金属による反射をモデルにする。
 反射による偏波面の変化はない。水平偏波は水平偏波に、垂直偏波は垂直偏波のまま反射される。但し位相は変化する。
 一方円偏波は反射されると逆回転する。偶数回の反射で同一方向の回転に戻る。

電界強度の谷に対する対応

 ここでは単純に直接波と反射波が一波、合はせて二つの波が干渉する状況を考へる。

送信電力の増加

 電界強度の谷の問題は、谷間で受信限界を下回り通信が成立しないことにある。
 送信電力やアンテナ利得の増加は、下のグラフの曲線を上にずらすことに相当する。その場合受信限界レベルを下回る範囲を狭くすることができる

standingwave

偏波ダイバシティ

 偏波ダイバシティは役に立たない。
 直線偏波を利用するシステムでは受信地点において直接波と反射波は同じ偏波である。両者がほぼ逆相になり合成電界強度が小さくなる。
 この状況において偏波面を直交させてもその偏波の信号は存在せず改善にならない。

reflextion

空間ダイバシティ

 端末を電界強度の谷から移動させれば電界強度は回復する。電界強度の谷は、受信地点に到来する複数の信号が同じ位相関係を満たす線に分布する。もう一つのアンテナが谷から外れた位置にあれば谷より強い電界強度で信号を受けることができる。

 但し二つのアンテナが電界強度の谷の中に位置することもあり得る。
 以下の図は二つの波の干渉による定在波の振幅を平面上で計算したものである。二つの信号源を結ぶ直線区間では2分の1波長毎に定在波の山と谷が繰り返されてゐる。この模様は信号源を焦点とした双曲線である。

 現実の干渉模様はこれよりはるかに複雑である。直接波と上下四方の壁で反射される多くの信号が三次元的に干渉模様を作る。使用環境の干渉をシミュレーションすることは容易ではない。

hyperbola
シミュレーションの設定 信号源は同相 hyperbola_big_c
定在波の振幅分布 縦軸は振幅、レベルは色分けされてゐる、赤い線は信号源の位置を示す。

standingwave4

周波数ダイバシティ

 通信周波数を変へると直接波と反射波の位相差が変化する。そのためある周波数の電界強度の谷は別の周波数では谷ではないことが期待できる。
 但し直接波と反射波の伝播距離によつては、新たな位相差が360度の整数倍になり谷のままの可能性もある。

円偏波ダイバシティ

 奇数回反射波は回転方向が直接波と逆になるため干渉が小さくなる。但し偶数回反射波は直線偏波の場合と同じ問題があり改善効果は限定的である。

角度ダイバシティ

 指向性を持つアンテナを複数組み合はせ通信範囲をアンテナ毎に分担する。街にある防災無線の受信塔は音波の角度ダイバシティの例である。スピーカーを四つ90度向きを変へて配置してゐる。
 アンテナ指向性の角度と離れた方角から来る反射波の影響を下げることができる。空間ダイバシティと組み合はせることもある。

防災行政無線塔の写真
調布市ウェブサイトより

目標設定の必要性

 以上のどの方法によつても電界強度の谷自体は存在する。谷に当つた場合の影響の重要度はシステム設計者が決める必要がある。不可避のものである以上、通信率概念の導入も検討する必要があらう。

以上

更新 H26.6.23
更新 H26.2.27
作成 H26.2.25