デジタル信号処理 アンダーサンプリングによる周波数移動と標本化周波数の低減
H21.9.14

序論

 デジタル信号処理の教科書ではアナログ信号の標本化を説明するに際し、アナログ信号の周波数帯域を図1のやうにDCから高域に延びるベースバンド信号と仮定してゐる。
標本化定理によれば、標本化周波数fsがアナログ信号の最高周波数の二倍以上であれば、作られた標本から元のアナログ信号を復元しうる。
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図1

 ではアナログ信号の周波数成分がDCからではなく、図2のやうに高い周波数に存在しその周波数に対して帯域幅が狭い信号である場合どう標本化するのがよからうか。
先のベースバンド信号の標本化のやうに、標本化周波数をアナログ信号の最高周波数の二倍以上にするのが一つの方法である。ただ図2を見ると、信号下側の大部分の帯域は使ってゐない。この領域は信号があればDA変換によりアナログ信号に復元されうる帯域であるが使用してゐない。
 信号の周波数が非常に高い場合はどうか。0から3GHzの受信機における例を図3に示す。受信信号は周波数変換により、中心周波数が3.525GHzで50MHzの帯域を持つIF信号になる。信号の帯域は50MHzであるにもかかはらず7GHzを超える周波数で標本化するのが適当だらうか。

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図2
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図 3 USP6507624より引用

本論

 そこで考へることは、信号自身の帯域幅は信号の存在する周波数に比べ遥かに小さいのであり、信号帯域幅の二倍程度の周波数で標本化する方法はないのかといふことである。
 勿論、再度周波数をベースバンドに変換し、ベースバンド信号を標本化する方法に帰着させることもできる。しかし周波数変換のための装置が必要であること、イメージ妨害を受ける可能性が高まることの欠点がある。

 ベースバンドに変換せずに標本化する方法はある。それは既に図3に示されてゐる。図では100MHzで標本化を行ってゐる。それをアンダーサンプリング(Undersampling)といふ。
アンダーサンプリングは別名を多数持ってゐる。ハーモニックサンプリング(Harmonic sampling)、バンドパスサンプリング(Bandpass sampling)、IFサンプリング(IF sampling)、ダイレクトIFツーデジタルコンバージョン(Direct IF to digital conversion)などの名で呼ぶ人もゐる。
ところが残念なことに、どんな名前であれ、デジタル信号処理の普通の教科書には殆ど載ってゐない。ここではそれを紹介する。

 アンダーサンプリングといふと標本化周波数が信号に対して低く、エイリアシングが発生する状況を想像するだらうが、この手法はエイリアシングを発生しない。誤解を解けるためにバンドバスサンプリングなど別の呼称を使ふのが適当かも知れない。

 アンダーサンプリングは難しい話ではない。コロンブスの卵のやうなものだ。図4のやうに高い周波数帯域に帯域制限された入力信号がある。その帯域の下限の周波数を標本化周波数として標本化を行ふ。
標本化された信号の周波数成分は図5のやうにfs/2毎に位相の異なった入力信号が並ぶことになる。DCからfs/2の帯域には入力信号が周波数変換されたものが存在する。図5のスペクトラムはベースバンド信号を標本化したときのスペクトラムと同様である。(※但し中心周波数に対するオフセット周波数が残留する。)

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図4

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図5

 USP6507624の場合を考へてみる。標本化周波数は100MHzであるから図6のやうになる。このことから標本化周波数が信号の周波数より遥かに低くても、その帯域幅の二倍以上の周波数で標本化すればエイリアシングは起こらない。

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図6

結論

 このやうに入力信号がベースバンド信号でなくても帯域制限された信号であれば、その帯域幅に応じた標本化周波数を選択することにより、信号の周波数よりも低い標本化周波数を採ることができる。これによりデジタル回路のクロックを遅くすることができ消費電力の低減につながる。
 但しAD変換器の周波数特性は標本化する信号の帯域まで延びてゐることが必要である。

参考文献

以上

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