HOME > 技術小論 > 記事 > 導体と絶縁体の区分

導体と絶縁体の区分

 タッチセンサー用ICメーカーが出してゐる技術説明文書には、人の指を導体として説明するものが見られる。静電気の本にも人体は導体であると書かれてゐる。

 しかし人体の或る部分の抵抗値を測ると大きい値を示す。電子回路の配線に使用される金属元素のやうに決して低い抵抗値ではない。電気を通し易いとは言へないので、人体は導体ではなくむしろ絶縁体だと思へる。

 テスター(マルチメーター)で人体の右手から左手の間の抵抗を測ってみる。測定リードを指で持つ。抵抗値は1MΩ以上であらう。しかもリードと指との接触面積を増やすと抵抗値は下がる。このやうなものも導体と言へるのであらうか。そこで資料に当ってみた。



 考察の結果、導体、半導体、絶縁体の区分は物質・素材の導電率・抵抗率によって決まり、加工された物体、部品の持つ抵抗値とは関係がないことを知った。

 しかしここに難しさがある。ある物体の二点間の抵抗値を測定した結果それが非常に大きかったとしても、その素材の導電率が導体の区分にあれば導体とされるのである。

  • 導体、半導体、絶縁体の区分は物質の導電率(抵抗率)によって決まり、加工された物体、部品の持つ抵抗値とは無関係である。

導体、絶縁体の区分

 はっきりと絶縁物と導体の区分を述べたものは少ないやうだ。日本語版Wikipediaにはかう記述されてゐる。

絶縁体の項より引用

 バンド理論において絶縁体は、半導体と同じく価電子帯と伝導帯の間にバンドギャップが存在する状態、またはその状態を示す物質である。半導体よりバンドギャップの値が大きいものが絶縁体でありその間に歴とした境界はない。

量子力学的な説明である。物理学では半導体と絶縁体の間に明確な境界はないとある。

次に電気伝導体の項をみた。これは物理学から電子工学まで降りてきた考へ方であらう。

一般には伝導率がグラファイト(電気伝導率106S/m)と同等以上のものが導体、10-6S/m以下のものを不導体(絶縁体)、その中間の値をとるものを半導体と分類する。

導体の区分と導電率
導体 106S/m以上
半導体 106か ら 10-6 S/m
絶縁体 10-6S/m以下
   

配線に使用される金属元素の導電率
元素 20℃での導電率
59.0*106S/m
45.5*106S/m
61.4*106S/m
アルミニウム 37.4*106S/m

人体の導電率

 文献によると、人体全身が均一な導電率を持つと仮定する簡易なモデルでは0.2S/mとされてゐる。配線材料の金属に比べ7桁も小さいが、導体の区分によれば半導体になる。導体と呼ぶのは相当背伸びをした表現であると私は思ふ。
 もう一つ注意すべきことがある。人体の電子伝導はイオン水溶液が担ってゐると考へられるので、金属とは異なり通電を続けていくと導電率が低下していくことである。

人体の導電率(全身均一モデル) 0.2 S/m

静電気上の区分

 上記の区分とは別に、静電気問題を検討する立場で導体、絶縁体の分類をしたものがある。観点は静電気をリークするかしないかである。

静電気上の導体の区分と抵抗率
絶縁性領域(静電気をリークしない絶縁物) 1TΩm以上
拡散性領域(中間の領域) 10kから1TΩm
導電性領域(静電気を通す領域) 10kΩm以下
高橋雄造、「静電気がわかる本」、工業調査会より
※引用文献には抵抗率ではなく抵抗値の表現がなされてゐるが誤記と判断して抵抗率とした。


参考文献
山崎健一他、「生体内誘導電流評価」、電中研レビューNo.47 第3章 電気工学研究 
阿波根明他、「低周波印加磁界による誘導電流解析」、電気学会 静止器・回転機合同研究会 SA-07-62,RM-07-78、2007/9/20

H21.7.20