デジタル信号処理 DFTの定義が異なる理由

 DFT, Discrete Fourier Transform 離散フーリエ変換の定義式には異なるものが存在する。異なる式で計算すれば値も異なる。

 実は連続関数のフーリエ変換も同様に異なるものがある。これはフーリエ変換の定義における任意性のためである。応用分野に相応しく変形されることで差異が発生する。結局のところ、どの定義式を使ってもそれを意識してさへゐれば問題はない。ここでは差異とそれが発生する分岐点を紹介することにする。

DFT定義式の差異

 時間領域の離散データ(g_0, g_1, ..., g_N-1)から周波数領域への離散データ (G_0, G_1, ..., G_N-1) への長さNのDFTを

        N-1    -jr2πk/N
    G = Σ g  e        (1)
     r  k=0 k
		  

とするか、

        1  N-1     -jr2πk/N
    G = --- Σ g  e      (2)
     r  N   k=0  k

とするかの違ひである。

 Σ以降の計算は同じであるが比例係数1/Nの有無に差がある。この比例係数は規格化定数と呼ばれる。いづれの式によってもGr相互の比は一致し、絶対値が異なるだけである。

DFT定義式の導出

 DFT定義式の導出は種々のものがあるが、ここではラシイ(B. P. Lathi)の本にあるフーリエ積分からの導出を示す。

 時間領域の関数g(t)は[0, T0]の区間にある孤立波でありそれ以外の範囲では0とする。Tsはg(t)の標本化時間間隔とする。

    N0 = T0 / Ts  (3)

フーリエ積分は

        ∞     -jωt
    G(ω)=∫g(t)e   dt  (4)
        -∞

であるが、g(t)の定義から

        T0     -jωt        N0-1       -jωkTs
    G(ω)=∫g(t)e   dt = lim  Σ { g(kTs)e     Ts } (5)
        0            Ts→ 0 k=0

となる。

 G(ω)から周波数間隔ω0で標本をとる。Grをr番目の標本とするとGr = G(rω0)。Tsは充分小さいとしてlimを取り除くと、

       N0-1       -jrω0kTs 
    Gr=Σ{ Ts g(kTs)e     }  (6)
       k=0

ラシイはここで gk = Ts g(kTs) 、Ω0 = ω0Ts と置き、

                 -jrω0Tsk       -jrΩ0k
    Gr=Σ{ Ts g(kTs)e     }=Σ(gk e   )  (7)

と変形する。ここまでがラシイの導出である。

 最後の変形はTs = 1と考へる場合に相当し、式(1)の形になる。

 一方TsではなくT0を1と考へると、Ts = 1 / N0であるから式(7)は

         1       -jrω0Tsk  1        -jrω0Tsk
    Gr= Σ---g(kTs)e     =---Σg(kTs)e      (8)
         N0            N0


となり1/N0が現れる。こちらは式(2)の形になる。

 つまり式を作るときの、基準とする時間の違ひにより変化が現れる。標本化時間間隔で正規化してTs =1, T0 >1 と考へるか、解析対象時間で正規化してT0 = 1, Ts < 1 とするかの違ひである。

フーリエ積分と一致する定義式

 式(6)を使用すればフーリエ積分を標本化した値が得られる。但しエイリアシングを考慮したTsの設定が必要である。またナイキスト周波数(折り返し周波数)付近は不連続性により誤差が大きくなる。

フーリエ変換の定義における任意性

 フーリエ変換には逆変換が存在する。変換したものに逆変換を施すと元の信号に戻る。次のやうな式が書ける。

    f(x) = 逆変換[変換{f(x)}]

         1   ∞  ∞      -jkx   jkx
    f(x)=----  ∫ {∫ f(x)e  dx}e dk  (9)
        2π  -∞ -∞

 ここに1/(2π)が現れる。式(9)の中括弧の内部がフーリエ変換であり、その外側がフーリエ逆変換を構成してゐる。1/(2π)を変換と逆変換に均等に割り振り1/√(2π)とする場合もあれば、一方を1もう一方を1/(2π)とするものもある。

 電気電子工学ではフーリエ変換の規格化定数を1、逆変換では1/(2π)とするものが多いやうである。DFTの場合フーリエ積分の1/(2π)に当るのが1/Nになり、分配の組み合はせがいくつか存在することになる。

 また式(9)の関係は、変換と逆変換の間で指数関数の符号を交換をしても成立するので、指数関数の符号の取り方も任意性があることになる。

 大浦拓哉氏が文献を調べたところ、規格化定数と指数関数の符号の組み合はせは考へられる全てがあったといふ。

以上

参考文献
B. P. Lathi, 'Modern Digital and Analog Communication Systems Third Edition', Oxford University Press, 1998, '3.9 NUMERICAL COMPUTATION OF FOURIER TRANSFORM: The DFT', p.130
竹内淳「高校数学でわかるフーリエ変換」講談社ブルーバックスB-1657、2009年11月、95ページ
大浦拓哉「FFT (高速フーリエ・コサイン・サイン変換) の概略と設計法」
OKWave「離散フーリエ変換(DFT)の公式について」

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